見出し画像

校長より生徒の皆さんへ その22 場 面

指揮者井上道義氏が若い頃、イタリアのシシリー島を訪れて、半円形劇場で野外音楽会を開催したことがあったそうです。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第二楽章が終わる直前に、突然の停電となりました。
街中の灯が消えてしまい、周囲は全くの暗闇と化し、見えるのは空に煌々と輝く月のみ。そのとき、客席の一人から、ベートーベンの『月光の曲』のリクエストがありました。
譜面もなければ練習もしていない、手元すら見えない暗闇の中、果たして演奏するべきか一瞬悩んだそうですが、『月光の曲』の演奏にこれ以上のお膳立てはない、不意の停電の思いがけない贈り物と考え、演奏を決意します。楽団員も皆、頷いて演奏の準備を整えていました。
時に音をはずすことはあったものの、それは心に染み入る名演奏であった、と、井上氏は話されています。
まさにこれこそ、予め用意さていた運命だったのかもしれません。